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「泣いてるの?」
最初に声を掛けてきたのは、やっぱり彼女だった。
顔を上げるまでもない。それは紛れもなく、私が一番聞きたかった声。
なのに私は、素直に喜ぶことが出来ない。
「……またあの人に、何か言われたの?」
少しだけ低いトーンで、私の鼓膜を撫でていく優しい声。
顔を上げなくても判る。
貴女はきっと、いつものように優しい眼差しで私を労っている。
……黙ったままの私の傍らに、絹擦れの音。
貴女がその冷たさもいとわず床に両手両膝をついて、屈み込んだことに気付く。
「優しくしないで。お願いだから、ひとりにして」
酷い言葉。
平気で彼女を傷つける私は、きっと世界で一番醜いにちがいない。
「……でないと私、貴女をあの人の身代わりにしちゃいそうなの。だから…」
私は、汚い。
珠理奈が泣いてる私を放っては置けないことを知りながら、こんな台詞で私に縛り付けて。
「――私は、ずっと明音のそばにいるよ」
確約のないその言葉にただ安堵していた。
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