黒鶫(くろつぐみ)

2/14
105人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
「泣いてるの?」 最初に声を掛けてきたのは、やっぱり彼女だった。 顔を上げるまでもない。それは紛れもなく、私が一番聞きたかった声。 なのに私は、素直に喜ぶことが出来ない。 「……またあの人に、何か言われたの?」 少しだけ低いトーンで、私の鼓膜を撫でていく優しい声。 顔を上げなくても判る。 貴女はきっと、いつものように優しい眼差しで私を労っている。 ……黙ったままの私の傍らに、絹擦れの音。 貴女がその冷たさもいとわず床に両手両膝をついて、屈み込んだことに気付く。 「優しくしないで。お願いだから、ひとりにして」 酷い言葉。 平気で彼女を傷つける私は、きっと世界で一番醜いにちがいない。 「……でないと私、貴女をあの人の身代わりにしちゃいそうなの。だから…」 私は、汚い。 珠理奈が泣いてる私を放っては置けないことを知りながら、こんな台詞で私に縛り付けて。 「――私は、ずっと明音のそばにいるよ」 確約のないその言葉にただ安堵していた。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!