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「んー、じゃあ昼はどうする?
このまま手ぇ繋いでたら作れないぞ?」
「………わうぅ…」
俺の手を握る春菜の手から僅かに力が抜けた。
午後から力仕事するし、空腹にさせるのはマズいと自覚してはいるのだろう。
俺も離したくないけど。
「……じゃあこれが命令で良いか?」
「まっ、待って……っ!」
しばし葛藤。
しばし逡巡。
上がり框(かまち)にスーパーのレジ袋を置きながら『えっと、えっと』と呟く春菜。
何と言うか、ご主人様が『お手』と言ったのを聞き違え、誤って『おすわり』をしたのでご褒美のエサが貰えず、どうしようかと考えているようにも見える。
要するに、和む。
「じゃあ………離す…」
寿命を迎えたロウソクの燃焼終了のような切ない声の直後、手の温もりが消えた。
うわ、スッゴく淋しい。
「ほ…ほら、手料理食べさせてくれるんだろ?
期待して待ってるな」
胸にグルグルと渦巻く切なさと罪悪感を抱えながら、靴を脱いで台所へと向かう。
まずは調理器具を出さないと。
*
「ごちそうさまでした」
「おっ、お粗末様でした」
春菜特製オムライスを完食し、合掌する。
美味かった。普通に美味かった。
トウモロコシをチキンライスに混ぜるのも悪くない。
……あ、ちなみに例のチョコは食後のデザートの為に買ったんだと。
そうか、春菜はチョコが好きなのか。
中学じゃ給食のときしか食べ物に関する話題は上がらなかったので、思わぬ収穫となった。
今度買ってあげよう。
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