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──────くんくん……
そんな擬音が漂いそうな感じに、春奈の鼻がひくつく。
場所は、この春から俺の部屋となる寮の一室。
「男臭かったか?」
「んー、別に問題ないよ」
そりゃ良かった。
春菜による検査(鼻オンリー)でOKが出たことに胸中でそう呟く。
陽当たり良好、畳もイタみはほとんど無し。
冷蔵庫にクーラー、更にはヒーターまでが完備されている。
これなら、後は布団とか着替えを持ち込めばそのまま暮らせそうだ。
「ね、ね、これから毎日来ても良い?」
トタトタと小走りで寄り、若干の期待を込めた質問を投げ掛ける春菜。
付き合い始めて1週間しか経ってないのだが、少し警戒心に欠ける節が見られる。
春菜、お父さん心配だよ。
「まぁ、来る分には構わないけど、女子寮から遠かったよな、ここ」
「わうっ!それは触れないのが優しさだよっ!」
早速問題が発生してるじゃないか、コノヤロウ。
小さく『だってぇ……』と不満を洩らし、春菜が俯く。
その様は、まるでエサのミルクを目の前でひっくり返してしまった仔犬のようだ。
「男が変に夜這いとかかけない為に離れてんだから、毎日来るのは面倒だろ?」
確か、距離にして1kmくらいだったと記憶してる。
「別に……幸くんトコに会いに行くの、面倒じゃないもん」
…………。
やべぇ、抱き締めたい。
「と、取り敢えず、荷物届くまでに昼済ませるか。どこ行く?」
沸き上がった衝動を誤魔化す為に、外に出ることを提案……
したのだが、
「あ、じゃあキッチン使えるか確認したいからスーパーで材料買お?」
手料理を振る舞って貰うことが決定した。
その際に人知れずガッツポーズした俺を……誰が責められようか。
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