Prologue.

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一年程前から、至る所でやたらと“視線”を感じるようになった。 例えば外食時であったり、業務で外に出た時や帰り道の途中など。どうしても誰かに見られているような気がするのだ。 初めは自意識過剰なのかと思ってあまり気にせずにいた。しかし最近になって妙にエスカレートしてきた行為の数々が、気のせいではないことを物語っている。 露骨な視線を感じることは勿論、最近は非通知から頻繁に電話が掛かってきたりしていた。だが、ストーキング行為をされたのは今日が初めてだ。 帰り道、ずっと後ろからついて来る靴の音を聞いて、私は怖くなった。 その迫りくる音は、“あのとき”の光景を嫌でも思い出してしまうから。 ああ、思い出すな。 思い出すな、私。 お願いだから、“あの色”を私に思い出させないで……。 一瞬記憶にちらついた色を、私は封じ込める様に頭を振った。 これ以上は、精神的に耐えられないかも知れない。警察に相談しようにも、彼らは実害がないと動いてくれない。 私は何も出来ない悔しさにぎゅっと唇をかみ締めながら、帰路を急ぐ。 今は、つけてくる靴音がしないことに安堵した。  
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