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リンは言う。
「頭の中いじくられるんだ。それで、全てのことを忘れて、ただの破壊の化身になっちゃうんだ。私、私、そんなの」
リンが、初めて見せた恐怖の表情だった。僕は、慌てて声をかける。
「リ、リン。そう悲観することないよ……。そうと決まった訳じゃ」
「これはカイにだって言えることだよ? もしかしたら、カイも脳ミソぐちゃぐちゃにかき混ぜられるかもしれないんだよ? それでも、それでもいいの?」
「そ、それは……」
言い返せなかった。自分が脳ミソをいじくられる光景を想像して、ぞっとした。身の毛がよだった。
「嫌だよ。私、化け物にされちゃうなんて」
「……リン」
元気出して。僕はその言葉を、彼女にかけられずにいた。彼女から、沢山かけられたはずの言葉なのに、僕はそれを彼女に言うことが出来なかった。
「嫌だよ。嫌だよ。何で、何で私だけ……」
「……僕だって」
僕は、体育座りをして、その中に顔を埋めた。
「……嫌だよ」
心の底から出てきた本音だった。
△▼△▼△
三週間目の朝食の時間。拷問にもなれつつあった僕だったが、その日やってきた黒ずくめの手を見て、僕は少々驚いた。そこには、いつも通りのパンが握られていなかった。
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