事情聴取 前

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──若い女性がパイプ椅子に腰掛けている。 肩に羽織った上着を胸の前で交差させた腕で握りしめて震えていた。 まるで自分で自分を抱きしめている様だ。 「三丁目の防波堤脇の道路で黒いフードを被った男にカップルが襲われた模様。女性は保護。男性の安否は不明。直ちに現場に急行されたし!」 僕は応援の要請を済ませると、備え付けの電話機に受話器を置く。 そして、奥へと引っ込み温かいコーヒーを持って来て座る彼女の前の机に置いて、僕は向かいの椅子に座る。 「それでも飲んで落ち着かせて。落ち着いたら何があったか話してくれるかな?」 コクリっ、と頷くとコーヒーを手に取り口へと運ぶ。 僕はそれを見届けると、同じ様にコーヒーを口に運ぶ。 「あっと、先に名前を聞いてもいいかな?」 「ジュンです」 彼女はか細い声で自分の名前を告げる。目線が定まっていないようだ(当たり前か)。 「うん。良い名前だ。…えー今回、あなたの事情聴取を担当する勿体島交番の針計時(ハリ ケイト)巡査です。よろしくお願いします」 机に両手を付き、仰々しく頭を下げる。 そのままの状態で、チラッと、彼女を見る。 ───────無反応。
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