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ガチャリ。
アタシは鍵をかけた。
もう、二度と哀しい想いをしたくないから『恋』と呼ばれる箱に口づけをして…。
――――――――――――――
同じ部活にいるセンパイが大好きだった。
「輝センパイ。」
小さく彼の名を口ずさむ。
けど、その声センパイには届かなくて。
「てーるっ!」
マネージャーの美沙センパイの声しか届かなくて…。
「っ、」
ツラカッタ。
二人は公認のカップル。
アタシなんかが勝てる訳がない。
だからできるだけ遠く、できるだけ横目でセンパイたちを気遣う毎日。
そんな中でアタシは。
「好きだ。」
産まれて初めてコクられた。
相手はセンパイたちと仲が良い勇樹センパイ。
「井上が輝の事を好きなのは知っていた。けど、どうしても伝えたくて。…え゛。」
懸命に想いを伝える勇樹センパイの驚いた顔。
それがおかしくて、嬉しくて‥。
頬を伝って涙が零れ落ちた。
「え、え!?どうした!?どっか痛いのか!?」
「違うんです…。」
熱い想いが込み上げ、さらに涙を催促する。
「じゃあ、どうして…?」
「……分からない‥。‥‥アタシ…何で泣いてるのか分からないです………。」
失恋した哀しみと『好き』と言ってくれたセンパイの想いが嬉しくて涙が次々と溢れてくる。
センパイは何も言わず黙って背中をさする。
アタシは今まで溜まっていた気持ちを全部吐き出した。
泣き止んだ後、センパイはアタシの答を聞く訳でもなく他愛のない会話をしながら家まで送ってくれた。
「また明日な。」
「はい。また明日。」
ポンッとアタシの頭を軽く叩き踵を返すセンパイをアタシは見えなくなるまで見送った。
あれから数日間良く考えて出した結果。
「よろしく、お願いします。」
センパイの気持ちを受け入れた。
その時、アタシの中の鍵が音をたててゆっくりと開いた。
――――――Fin.――――――
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