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わたしは「父」であった人の母国である日本へ降り立った。
長い船旅の疲れも、待ち望んだ「今」を意識すると吹き飛んだ。
「父」は日本人であった。
わたしは父をみたことがない。どういう人なのかもよくしならい。
母はわたしを生んでしばらくして亡くなった。
そういうわけで孤児院に入れられたわたしが、父や母のことをよく知らないのは無理もない話だと、自分でさえも納得してしまう。
知っていることといえば、今は亡き祖母が話してくれた、
「美しかった母」と「品行方正な父」、「母を捨ててこの日本へ帰った父」ということぐらいだ。
初めて訪れる国で、しかもたった一人の人物を探し出すのは困難だと思われたが、どうやら父は出世したらしい。
わたしはこの母親ゆずりの外見と、父親ゆずりであるという学才のおかげで、養子にはいることができた。
跡取りのない老夫妻。このときばかりは、母に男に生んでくれたことと、「父」にこの学才を譲り受けたことを感謝した。
お金に困らない育て親のおかげで、わたしもそこそこに出世することが出来たのだ。
そしてようやく父を捜し出すことが出来た。
なぜあれから20年以上が過ぎた今になって「父」を探し出し、そして今、彼に会おうとしているのか、全くわたしにもわからないが、なぜだかここまで来てしまったのだからしかたがない。
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