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今「父」はこの町にいる、このホテルにいる。
わたしはついにこのホテルまでやってきたのだ。
彼が仕事でここに来ているという情報には確証がある。
わたしはロビーの、体によくフィットするソファに腰をかけた。
「父」はわたしがここにいることを知らない。
それ以前に、わたしが生きていることさえ知らない。
おそらくわたしを見ても、誰だかわからないだろう。
そうふと思ったとき、ホテルの大理石の階段を下りる、身なりのいい集団が目に入った。
(父だ――!!)
その集団の中心にいる人物を見た瞬間、直感的にそう感じた。
思わずソファから立ち上がる。
「お父さん!」
違う。今の声はわたしではない。わたしはまだ何も言っていない。
だが「父」は足を止め、ゆっくりとわたしのいる方を振り返った。
その父の表情はとても優しい笑顔だった。
これが「親」というものなのか・・・。
わたしは彼の焦点へ、わたしの後ろへ向けられる視線の先を、顧みた。
そこには長く美しい黒髪の、黒い瞳の少女がいた。
わたしよりも、いくつか年の若い美しい少女。
先の父の表情を見て悟った。
「父」の「娘」。
覚悟はしていた。
新しい女と、子供、その両方があるだろうということは、わたしの考えのうちだった。
だがまさかこのタイミングで出会うことになるというのか。
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