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「どうして、ここに?」
「お母さんが、忘れ物だって」
「そうか。わざわざありがとう。気をつけて帰りなさい」
「はい。お父さんも、お仕事頑張ってね」
「あぁ」
まぎれもない、仲のよい親子の姿に、わたしは目を離せなかった。
父は娘から紙袋を受け取り、娘に別れを告げるとわたしに背を向けた。
背広を着た集団の中に戻っていく。
わたしは、その背中から目を離せない。
父が・・・行ってしまう。
わたしは、どうしたらいいのか。
ここで声をかけるのか? 父の娘がいるここで・・・。
わたしに気が付かなかった、父を・・・?
「・・・っ」
そのようなことが、出来るわけがない。
「あの・・・?」
しかしすぐ横からかけられた言葉にはっとすると、それはあの少女だった。
父の娘である、わたしより少し若い少女。
今のわたしはきっととてもおかしな顔をしているのだろう。
驚愕と、困惑と、失望によって。
「父の、お知り合いですか?」
少女がわたしに話をかけている。
何か、何か答えなければ・・・。
「い、いえ・・・。あの、お茶でもどうですか?」
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