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「君も私の理想郷のために働く気はないかい?君達ルナの申し子が全員加われば私に敵はない」
また奴の言葉から出た単語、『理想郷』。何なんだ?私はてっきり魔生物による支配と思っていたが。
噴水の水を見つめながら奴はまた一つ口を開く。外では戦いが行われているというのに、余程信用しているのか。
「君達は心の奥底では人間を恨んでいる。間接的とはいえ、ルナを殺した奴らだからね。けど人間全てが悪ではない。そう思って君達は生きてきたんじゃないかな?」
心を見透かされている。私は一度たりとも今デュランが言った事を誰かに話したことはない。
「お前……ルナ姉さんの最後を何故……」
「君は隠力の酷使で彼女が死んだと言っていた。彼女の隠力は分解と再構築。君達のために使った酷使とは考えられないね。彼女は頭が良かった。君達のために死んでしまっては君達が苦悩してしまうとわかっていた。じゃあ残った選択肢は一つしかない」
この男は過去のルナ姉さんを知っている。今ので確信した。まさしくルナ姉さんの性格を言い表している。
「彼女は人を愛していたからね。君達もそう教えられていた。でも、そんな強制された教えはもういいんじゃないかな?君達は羅国で人間とは違う生物として扱われている。法律も違う。変えてみたいと思わないかい?」
何て奴だ。私達が決して触れまいとしていた黒い部分をこの男は平気でわしづかみしてくる。
私が羅国の帝国にいる理由がそれだ。隠力者と人間の待遇を一緒にしたい。化け物扱いされて欲しくない。せめて未来の隠力者には。
それがこの男の理想郷の中にある……?
嘘に違いない。そう断言してしまいたい。だが、闘刃が既に傘下に入っている事がそこに繋がる。
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