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そもそも遺伝子があるからと言ってこんな事が起こりうるのか?
「お前は……死者を愚弄したのか」
「愚弄?違うね。彼は後悔したまま死んだ。まだ悔いが残っていたからこそ彼の深層部分が生き残った。これは私の実験結果だよ」
じゃあ本当におっさんの言わば生まれ変わりって事?
嬉しさがこみあがる前に俺は頭を振って冷静に考えた。
違う。あれはおっさんではない。遺伝子は同じでも俺を育ててくれたおっさんはあの五年前に病で亡くなった。それは覆すことのできない事実。
「師匠……なのですか?」
しかし姐さんはそう思っていない。おっさんが死んで誰よりも悔いたのは姐さんだ。帝国の部隊にいるのもおっさんの意志があってこそ。
「理想郷の主はガデス。彼は隠力者であり、魔生物だからね。どうだい、蓮花?君は自分の師と共に歩みたい?それとも別の道に行きたいかい?」
「姐さん!!ガデスはおっさんじゃない!!いくら遺伝子から甦った姿だとしても別物だ!!その男の甘言に騙されては」
「……わかっている!!ガデスが師匠じゃないことも、戯言であることも。でも……駄目なんだ。私の心の奥は嬉しくて、喜んでいて」
姐さんが涙を流している。おっさんが死んだときに初めて見た、姐さんの弱い部分。
デュランの奴め。コイツは弱みに付け込むのが狡猾であくどい。これ以上姐さんを揺さぶるのは危険だ。早く始末しないと。
しかし俺がいざ動こうとした瞬間、姐さんが俺の前に立ち塞がる。
「流人、私は最低な奴だ。帝国兵でありながら帝国を裏切った」
「姐さん……何言って」
「今、この時から私はデュランの協力者となる」
誰がこんな展開を予想できたのか。かつて羅国で名をはせた隠力者達が、こんなにも簡単に寝返ってしまった。
理絵、ごめん。約束、守れないかもしれない。
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