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警戒して部屋の中へ進んだんだが、何かが起こる様子はない。それに明かりすらついていない。
すぐに電気をつけ、全体を確かめる。
「いたのか」
気配を消していたからか、いるかどうか定かではなかったが、クロは眠っている吉宗の横に佇んでいた。
「デュランの言っていた事は本当だな。酷い顔だ」
「…………」
今にも消えてしまいそうな顔をしている。これが魔を喰らい尽くす魔生人の最高傑作とは誰も思わないだろう。
「しっかりしろ。吉宗を覚醒させるにはお前の力が必要だ」
するとクロは目を見開いて俺に迫る。
「どうやって!?彼は戻る!?」
「精神に呼びかければ。俺が肉体と精神のリンクを繋ぎ合わせる。その時にお前が吉宗に訴えかけろ。そうすれば現世に戻る」
「じゃあ早く!!」
急かせるクロを俺は手で制した。やる前に言っておかねばならない事がある。
「お前は吉宗の精神に触れる事になる。お前が吉宗に対して晒したくないモノがあるように、吉宗もお前に知られたくない事もある」
「彼が……隠していること?」
まだ知らないようだ。当然だろう。吉宗は決して語らない。多分、こうならなければ一生話すことはなかったと思う。
「吉宗を大切に思っているなら、それを否定しないでやってくれ」
クロが頷くのを見て直ぐさま吉宗の頭に手をかざし、精神と肉体のリンクを始める。
これを実行しているときは俺も完全に無防備になる。出来れば護衛が欲しかったが、そんな事を言ってられる状況でもない。
「クロ、俺が今からお前の精神と吉宗の精神との橋を創る。そこで直接吉宗の精神に呼びかけてくれ。準備はいいか?」
「……大丈夫」
俺も覚悟を決め、もう一方の手をクロの頭にかざす。
目をつむり、リンクを開始した。
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