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「ありゃりゃ、のぞき見されちゃったか」
自分に声をかけられたと思うくらいの近さに私は直ぐに後ろを振り返った。
「……宗吉?」
「名前、呼んでくれたの久々だね。初めて会った時以来かな?」
景色が霞む。でも私は懸命にそれを振り払った。彼の姿を一瞬でも見失いたくない。幻にしたくない。
「いつも一緒だったから。何となく呼ばなくなった」
「……クロの気配を感じたんだ。まさかと思ったけどね。俺の精神にまで来るなんて、ひょっとして惚れちゃ」
私は彼が喋るのを終える前に抱き着いて顔をうずめた。
「え?いきなりどうした?」
「……一ヶ月」
「え?」
「会えなかった時間。本当に寂しかった。生きた心地、あまりしなかった」
彼は戸惑っているようだ。普段の私はこんな事を言わない。だけど今の私は普段の私ではない。
「さっきの答え。私は好き。宗吉が大好き。だからここまで来た」
「……感無量です」
彼の声、匂い、姿、仕草、その全部が私にとって大切なモノ。
「俺の黒い部分、見せたくなかったんだけどね」
少しだけ哀しそうな顔になる。でも私は逆に知ることができてよかったと思っている。私は彼の表面だけしか知らなかった。あれも『宗吉』であることに変わりはない。
「お互い様。それに大丈夫。私強いから」
「なるほど、そりゃあそうだ」
こうしてお互い笑い合うのもいつ以来だろうか。私も宗吉も戦いに追われ続け、その中で色んな事に悩み、難しく考え過ぎていたのかもしれない。
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