第二十ニ章 魔生人サヤ

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蓮は責任感が強い。まだ帝国との迷いが生じているのだろう。往生際が悪いとは思わない。悩むのが普通だ。特に蓮は隠力者として常に先頭を走ってきた。自分の気持ちを押し殺す事に従事し過ぎた代償だ。   俺は中指で蓮の額を軽くつっついた。   「何を……」   「俺はお前の決断が間違っているとは言わん。お前と源蔵の関係を最初から見てきたからな。だが、その様子だとかつての仲間とは到底戦えない」   「私達は、やはり戦う事になるのか?」   「任せておけ。そんな不毛な争いは俺がさせん。数日後、俺はデュラン、シーザを連れて羅国に行く。そうならないためにだ」   蓮も行動を一緒にして欲しかったが、既に指名手配になっている可能性もある。   目線を少しだけ左右に揺らす。……大丈夫だ。この位置なら死角になる。   「そういえばさっきジャージを濡らしてしまってな」   俺は隠力を発現させ、白の生地に黒鉛を集めて羅国語の文字を作った。直ぐに蓮はそれに気付く。   「この辺りにシミがついてしまった。見えるか?」   文字は文を作り、俺の言いたい事を形にさせる。   「……かなり見える。白いから目立つな。早く洗った方がいい」   表情を変えずに返してくれた。流石だ。   「出発前に洗ったら戻った時には乾いているだろう。乾かす時は外側と内側どっちがいいんだ?」   意図を読んでくれている。この辺は幼なじみだからわかる事。   「私は内側だな」   「じゃあそうしておこう」   あまり長く留まっていると怪しまれる。そこで会話を打ち切り、蓮とは一旦別れた。   これで蓮にもあの事が伝えられた。デュランが研究所を離れるような機会はこの一度しかない。   吉宗、上手くやれよ。
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