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蓮は責任感が強い。まだ帝国との迷いが生じているのだろう。往生際が悪いとは思わない。悩むのが普通だ。特に蓮は隠力者として常に先頭を走ってきた。自分の気持ちを押し殺す事に従事し過ぎた代償だ。
俺は中指で蓮の額を軽くつっついた。
「何を……」
「俺はお前の決断が間違っているとは言わん。お前と源蔵の関係を最初から見てきたからな。だが、その様子だとかつての仲間とは到底戦えない」
「私達は、やはり戦う事になるのか?」
「任せておけ。そんな不毛な争いは俺がさせん。数日後、俺はデュラン、シーザを連れて羅国に行く。そうならないためにだ」
蓮も行動を一緒にして欲しかったが、既に指名手配になっている可能性もある。
目線を少しだけ左右に揺らす。……大丈夫だ。この位置なら死角になる。
「そういえばさっきジャージを濡らしてしまってな」
俺は隠力を発現させ、白の生地に黒鉛を集めて羅国語の文字を作った。直ぐに蓮はそれに気付く。
「この辺りにシミがついてしまった。見えるか?」
文字は文を作り、俺の言いたい事を形にさせる。
「……かなり見える。白いから目立つな。早く洗った方がいい」
表情を変えずに返してくれた。流石だ。
「出発前に洗ったら戻った時には乾いているだろう。乾かす時は外側と内側どっちがいいんだ?」
意図を読んでくれている。この辺は幼なじみだからわかる事。
「私は内側だな」
「じゃあそうしておこう」
あまり長く留まっていると怪しまれる。そこで会話を打ち切り、蓮とは一旦別れた。
これで蓮にもあの事が伝えられた。デュランが研究所を離れるような機会はこの一度しかない。
吉宗、上手くやれよ。
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