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さっきとは異なる道筋で天獄の境界まで急ぐ。
悔しい。私が人間だったら彼に血を与える事ができたかもしれないのに。魔生人だから何もできない。
つくづく私は戦う事しか能がない奴だと実感する。
「あ……ん……ん?クロ……か?」
「喋らなくていい。私が首都まで行く。そうすれば助かる」
彼の生命力はまだ消えていない。私は速度を少し上げて九大蛇を出す。
「彼を縛って。落ちないようにしっかり」
「ケッケッケ、俺は便利屋じゃないんだけどな」
見えてきた。境界はまだ作動していない。いける。
「惜しかったな」
完璧に油断していた。大きな光の剣が黒翼を横一直線に斬り、私は空中から地面に落下していく。
なんとか私だけが衝撃を受けるようにするため、カラダに縛っていた彼を解き、両手で支える。
一度彼を横たわらせて奴と向き合う。
「ザード……」
「リーンも多少てこずったが、俺の敵ではない。さぁ、翼を失い、宗吉を庇いながらで俺を倒せるか?」
舌打ちが鳴る。あとちょっとで境界を越えられたはずが。これではまともに飛ぶ事もままならない。
「……貴様がデュランの元に帰るというのならば、宗吉をどうにかしてやっても構わん」
「彼を助けられる!?」
「デュランならそのくらいの譲歩はしてくれるだろう。当然貴様は自分の意思でデュランのために働く事を条件にされるだろうがな」
デュランは生物学者だ。それにあの研究施設もある。助かる見込みは高い。
あの男に従うのは嫌だが、彼を亡くしてしまうのはもっと嫌だ。
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