第十一章 彼女の決断

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最大生理限界はまだ大丈夫。時間は十分ある。   「どうした?戦わないのか?」   私との距離はおよそ四メートル。足を一つ動かせれば届く近さ。   なのにその一つが進められない。   「……私はこんな事のために強くなったわけじゃないのに」   この国に来た目的も違う。闘刃君と宗吉さんを助けるために故郷を離れた。学園に生徒も残して。   「俺がいなくなってから若菜は少し甘くなったようだな」   彼は偽剣と小手を生成し、先端を私に差し向ける。   それよりも、私が甘くなったとはどういう事だろうか。   「最大生理限界を長い間制御できるようになり、確かにお前は肉体的に強くなった。だがそれによって相手により自分の力を加減する事を知り、精神的な弱さを持つことにもなった。今お前はこう思っているだろう。『闘刃君はかつての仲間だから本気にはいけない。こうなっているのも何か事情があるはずだ』と」   「それは……」   でも何がいけないというんだ。私は闘刃君のように簡単に区別することはできない。それに仲間だからじゃなくて……。   「俺と吉宗は残念だが羅国に帰るつもりはない。どうするんだ?お前たちは」   闘刃君は決してこの状況の訳を話さない。……何故話さないんだ?さっきから具体的な事を一切言っていないし、クロを魔生界に連れて行くという目的だけ述べている。   よく考えるんだ。私がするべき行動を。
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