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例えば彼、『高山 恭一』の場合
「実は私、魔法使いなの」
唐突に幼なじみから摩訶不思議なカミングアウトをされ、平穏に生きてきた彼の物語は大きく動き出した。
「……」
「……」
それは、とある日の夕暮れ時。
幼なじみ『蒼乃 光』からの突然のカミングアウトに恭一は開いた口が塞がらなかった。
何を言い出すかと思えば自分が魔法使いだと。
それを信じるか信じないかと言えば、
「バカじゃねーの」
信じられる訳もない。
「バカって何よ! 私は真剣に……」
「あー解った解った。じゃあ病院にでも行ってこい」
「ちょっと恭一!」
恭一はベッドに寝転がり、雑誌をパラパラと捲った。
放課後、いきなり部屋に入り込んで菓子とジュースを平らげた後に意味不明なことを言われ、もう突っ込む気にもなれない。
「真剣に聞いてよ! これは恭一の命に関わることなんだから!」
「はぁ? そんな"ちょっとコンビニ行ってくる"みたいな感覚で"魔法使いなの"とか言われて信じられるかよ。バカも休み休み言え」
「バカバカ言わないでよバカ!!」
「毎回赤点取るようなバカにバカなんて言われたくねーよ」
恭一は光を一切見ないで適当にあしらう。
完全に聞く耳を持たない恭一に、光は深く息を吐いてテーブルに置かれたグラスを手に取った。
「……そこまで言うなら証拠見せるわよ」
「チンケな手品なら結構だ」
「いいから……こっち見なさいよ!!」
「っ?!!」
光はグラスに半分以上注がれたジュースを勢い良く恭一へと投げかけた。
反射的に恭一が目を瞑った瞬間、光の足元が淡い輝きを放ち、部屋を包み込んだ。
「……?」
いつまで経っても予想していた衝撃が来ず、恐る恐る目を開けると、目の前には信じられない光景があった。
「これで信じた?」
自信満々の光の前には、さっきグラスから放たれたジュースが空中で固まっていた。
まるで時間を止めたように一時停止された状態。
目を疑うようなシチュエーションに、恭一は言葉を失う。
「……光……お前……」
「私の話、聞いてくれるよね」
信じられない光景と、今まで見たことがない幼なじみの真剣な顔。
恭一は有り得ないほど跳ね上がる鼓動に息苦しさを感じながら、静かに頷いた。
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