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「ドールはどうなった?」
真っ暗な室内。一つだけ付いた淡い照明に照らされ、誰かが言った。
男とも女とも取れる、中性的な声で話す部屋の主の顔は全く見えない。
その声の主に向かい、白衣を着た温和そうな印象を受ける青年がファイルを開いて書類を捲りながら話し始めた。
「使用した爆弾の威力が大きかった為、ダリウスの森は全焼。現在、軍が捜査を始めています。ドールの生死は確認できていません」
「ふぅん……ま、この程度じゃあ死なないだろうね」
「はい。……ボス、どうしますか?」
声の主、ボスと呼ばれたその人は暗闇で笑った。否、笑ったように感じた。
薄ぼんやりと付いた照明だけではボスの顔は全く解らない。
だが、小さく聞こえた声で笑ったのだと青年は判断した。
「ソエル。君は、どうしてほしい?」
「……私は、貴方の指示に従うまでです」
「へぇ? 君にドールを壊せるの?」
「……それが貴方の指示なら」
白衣を着た青年、ソエルは目を伏せて答えた。
その様子にボスは『ククッ』と喉を鳴らして笑う。
「……ボス」
「なんだい?」
「何故、貴方は何も仰らないのですか……?」
「何のことかな?」
ボスの声が愉しげに響く。彼は解ってて楽しんでいる。
居たたまれなくなったソエルは、音を立てず深く息を吐き出してボスに頭を下げた。
「失礼、します……」
俯いたまま部屋を出て行くソエルの背中を見送り、ボスは口角を釣り上げて笑う。
可笑しい。実に愉快で、滑稽だ。
ボスはこれから起きるであろう事態に笑いが止まらなくなった。
「…"時の黙示録"は動き出した」
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