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まるで、ホラー映画だ。
俺たち以外の時間が止まってしまったかのような、そんな気分だ。
「兄ちゃんっ!!」
男の手が、弟に向かって伸びてくる。
「こなくそぉおおお!!」
オレは、男の腕をガラスの灰皿で殴りつけた。
しかし骨を折るつもりで殴りつけた灰皿ははじき返されて、逆にオレの手が男につかまれてしまう。
「ぎゃあああ!!」
「兄ちゃん! 離せっ! 離せよぉおお!!」
男につかまれた右の腕が、砕けそうだった。
弟が、オレが落とした灰皿で男の腹や腕、股間までもを殴る。
けど、男は止まらなかった。
例の大きなプレゼント袋を広げて、持ち上げた俺の体を、そこに入れようとする。
死体だらけの、生臭い袋に、オレの片足が突っ込まれた。
「ひぃい!」
ぬちゃり、とイヤな感覚をつま先に感じ、オレは膝を曲げて足を袋から脱出させる。
殺される。そんな言葉が、頭をよぎった。
「兄ちゃん! 兄ちゃん!!」
「トキ逃げろ! お願いします! 弟だけは助けて下さい!!」
いつの間にか、小便をもらしていた。
いつの間にか、涙がボタボタと落ちていた。
それでもオレは、死ぬまで兄でいられた自分を、少し誇らしく思っていた。
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