2787人が本棚に入れています
本棚に追加
/800ページ
「……親父……」
親父のいうことは、いつも回りくどくてわかりにくい。
書いている小説そのままだ。
だけど……今言いたいことは何となくわかった気がする。
「……うん、そうだねー。おれさー、喜んでほしいとか、ちょっとはおれの気持ちに気づいてほしいとか思ってたよ。
それってきっと、どっかで押し付けみたいになってたのかもね。
……おれ、見守りたいな。
その子がつらいときも、嬉しいときも、見返りを求めないで、そっと元気づけられるようになりたいな」
「タケルくんなら大丈夫ですよ。君は、優しい子ですから」
「はは……」
自分の息子に全く照れることなくこういうことが言えるのは、親父のすごいところだと思う。
言われてるこっちがこそばゆいよ。
「……それにしても、タケルくんが一人の女の子に夢中になるなんて珍しいですね。
それほど魅力的な方なんですか?
どんな方です? 久美子さんに似ていますか?」
「はあ!? 母さんに似てるわけないじゃん! おれと親父の趣味は違うよ」
別に母さんが嫌いなわけじゃないが……。
うちの母親は『もしもジャ〇アンのかあちゃんがキャリアウーマンだったら』みたいな感じの人だ。
残念ながら、ああいうタイプにときめいたりすることはない。
「……母さんとは全然違うよ。大人しくて、どっちかっていうと引っ込み思案で……
でもすごく頑張り屋なんだ」
おれの頭に、柳井さんの笑顔が浮かぶ。
それは沢渡と一緒にいるときの笑い方だった。
最初のコメントを投稿しよう!