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家庭科(男子は技術科)は3、4時間目の連続授業。
そんなわけで昼休みには、女の子たちが家庭科で作ったらしいカップケーキを交換しあったりして、楽しそうに食べていた。
幸運にもケーキをもらっている男子もいたりする。
……うらやましすぎるよ、ちくしょう。
もちろんおれにそんな幸運が訪れることはない。
しかも廊下をブラブラ歩いていたら、宮崎先生に雑用を頼まれるというアンラッキーに出くわしてしまった。
「……はあ……」
タペストリーみたいな世界地図を1階にある文化倉庫に運ぶ。
こいつが意外に重い。
宮崎先生、こういうのは自分で運ばないと、体力のおとろえが早くなりますよー
……なんて、心の中でこっそり悪態をついてみたり。
だけど、
「お……!」
1階の廊下で、サラサラの黒い髪の後ろ姿を見つけたとき、おれのテンションは一気に上がった。
「柳井さーん!」
思わず廊下を走って彼女にかけよる。
柳井さんは、ちょっとビックリしたように身体を弾ませて、おれの方を振り向いた。
黒い髪がサラリと流れて、すごく綺麗。
「……ああ、松田くん。
そ、それどうしたの? 重そうだね」
柳井さんがおれの抱える地図を見て、クリクリした目を見開いた。
「宮崎先生のお手伝いー。先生、重いからって自分で運ばないんだもん。老化が始まったのかなー」
「ふふ……。そ、そんなこと言っちゃダメだよ」
おれの冗談に、柳井さんがクスクス笑った。
ほんわかとした気持ちになる。
そして、そんな柳井さんからはフワリと甘い匂いがした。
そう……ケーキの匂い。
柳井さんは、大切そうに小さな紙袋を持っていた。
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