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……そんなある日の放課後。
おれと柳井さんは図書委員の当番でカウンターに座っていた。
この時間はおれの楽しみ。
図書委員は大声厳禁。
だから柳井さんとは、カウンターにノートを置いて筆談をして過ごす。
小さくて可愛らしい柳井さんの字と、ミミズがはったみたいに汚いおれの字が交互に続いていく。
『おれ的には、あの小説はハズレかなー。あの作家はノンフィクションが面白いね』
『でも文章は上手いよね。読みやすい』
『いやいや、読みやすすぎて心に残らない。サラッと読めるけどねー』
という文の最後に『やれやれ』という顔文字みたいな落書きをつけると、柳井さんが吹き出した。
ツボにはまったらしい。
静かな図書室に思いの他その声は響き、柳井さんは顔を赤らめた。
唇をとがらせながらシャーペンを走らせる。
『もう松田くん、笑わせないでよ』
『ゴメンゴメン』
『はずかしかったー!』
そこには、汗をかいた猫みたいなイラストが付け足される。
これがやたらと下手くそ。
今度はおれが吹き出す番だった。
――――ぐぅー……。
「……あ」
吹き出すと同時に鳴り響く、おれの腹の虫。
さすがに放課後ともなると空腹になってくる。
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