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腹の音は柳井さんにも聞こえてしまったらしい。
ちょっと驚いたような顔をしている。
うわー! なんか恥ずかしい!
照れ隠しに、倒れてピクピクしている棒人間を描いて、そいつに『腹へったー』と叫ばせてみた。
幸運にも柳井さんのお気に召したみたいで、声を殺しながらも楽しそうに笑ってくれる。
ひとしきり笑ったあと、柳井さんもノートにシャーペンを走らせた。
『実はね、クッキーがあるんだよ。今日の家庭科の調理実習で作ったの』
「え?」
思わぬ言葉に声が出てしまった。
柳井さんは笑顔で自分のカバンから、ちいさな包みを取り出した。
「……今日の調理実習ね、フレーバークッキーだったの。班のみんなで作ったから、美味しいと思うよ。
私がお菓子作ると、ちょっと固くなることが多いんだけど、これはそんなこともないし……」
小声でそう言いながら、包みを差し出してくる柳井さん。
「え、おれがもらってもいいの?」
「う、うん。はじめから松田くんにあげようと思ってたから……」
「……!」
ヤバい。
今、めちゃくちゃハートをつかまれた。
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