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「松田くん、クッキーが好きって前に言ってたでしょ? だからね、調理実習でクッキーを作るって決まってから、松田くんに渡そうって思ってたの……」
「柳井さん」
「松田くんにはいつも本当にお世話になってるから。図書委員の仕事でも……それに、お話もたくさん聞いてもらってるし。
私、こんな風にたくさん色々話せる男の子の友達って初めてだよ」
「それは、おれに下心があるからかもよー」
おれがおどけて言うと、柳井さんは穏やかに微笑んだ。
「……私、ね……松田くんってすごいと思うの。すごく大人だと思う。
みんなのことよく見てるし……それにいつまでもクヨクヨしたりしないよね。ちゃんと悲しいことを自分の中で受け流せる人だと思うの。
そういうところ……尊敬してるよ。
松田くんと仲良くなれて良かった。仲良くしてくれて、本当にありがとう」
柳井さんの笑顔があまりに可愛くて綺麗だったから、おれは何も言葉が出せなかった。
いつもみたいにふざけて『じゃあチューしてよ』とかも言えなかった。
ただ……柳井さんに見とれていた。
「……だから、これはほんのお礼。フレーバークッキーだから、もしかしたら苦手な味があるかもしれないけど。だったらゴメンね。
でも色々な味があるから、好きな味も絶対あると思う」
「……ありがとう。柳井さん」
クッキーの入った包みは、ささやかな重さだった。
でも本当に嬉しかった。
これは柳井さんが、おれのために用意してくれたもの。
他の誰のもの……沢渡のものですらない。
おれだけの宝物だ。
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