はじめての、おつかい

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「……へー、そんなことがあったのかー」 時刻は夜の10時すぎ。 沢渡家のダイニングルーム。 ここの家長である、陸たちの父親は少し驚いた顔をしている。 風呂上がりのビールをゴクリと飲んだ。 父の前には、複雑な表情の陸。 今日、保育園であった空と海のケンカについて説明していたのだ。 ――――ケンカのきっかけは、保育園でのお絵描きの時間だった。 今日は家族の絵を描くことになっていた。 空が描いたのは、父親と陸、海。 そして……2年前に亡くなった彼らの母親だった。 『パパがね、ママはそらの上からオレたちをみてるって言ったんだー。だから、オレたちはいつもいっしょなんだよ』 空は絵を描きながら、保育士の先生にそう言ったらしい。 だが、その言葉に海が反発した。 『ちがうもん。ママはもういないんだもん!』 海の描いている絵には、母親の姿はなかった。 『みんないってるもん! “ママがいなくて、大変だね”って。 だからもうママはいないの。でも海は平気だもん! おにいちゃんもパパもいるから平気なんだもん!』 海は空の絵を取り上げた。 『空ちゃんはうそつき! だってママはいないもん』 『ちがう! うそつきは海ちゃんだ! ママはちゃんとおそらの上にいるもん!』 『いない!』 『いる!』 そこからは2人の取っ組みあいのケンカに発展した。 先生たちは2人を止めて、なだめてくれたものの、母親についての意見の違いについては納得させることが出来なかったらしい。 .
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