2789人が本棚に入れています
本棚に追加
「……空や海がそんなふうに思っていたなんて。
母さんが亡くなって、やっぱり色々とつらい思いをさせていたんだ。……んっ……」
陸が悲しそうに目を伏せる。
そして軽く咳き込んだ。
「陸、風邪ひいたんじゃないか?」
「いや、大丈夫だと思う」
そう言いながらも、陸の目はトロンとしていて、明らかに疲れているみたいだった。
「今日はもう寝たらどうだ? 海と空も寝てるしさ。
2人のことは心配しなくていいよ。案外、明日になったらケロッと仲直りしてるかもしれないよー」
「……う……ん」
「母さんのことはさ、確かに2人とっては難しい問題かもしれない。だけど、遅かれ早かれ2人はそのことで悩んだり、寂しがったりすることが出てくるんだ。
俺たちに出来るのは、そのときにしっかりと2人のことを受け止めてやることだと思う。
だから陸、そんな顔をしないで。お前が悲しんでると、海と空がもっと寂しい気持ちになるからさ」
「父さん……」
「今日は寝なさい。あとの家事は俺がやっておくから。
お前も高校生活が始まったばかりで疲れているんだよ。たまにはゆっくり休みなさい」
「……わかった」
陸は弱々しく微笑んで、部屋に戻っていった。
父は残ったビールを飲み干すと、ふう……と大きく息を吐く。
「……まだ責任を感じているんだな。若菜のこと……」
そうつぶやいて、目を閉じる。
「……若菜。俺は、何て言ってあげればいいのかな……」
その問い掛けに答える者はいなかった。
.
最初のコメントを投稿しよう!