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その日の6時間目。
沢渡の言葉通り、文化祭の劇の練習の時間。
役者と裏方に別れて、それぞれ稽古にはげむ。
おれの役割は音響。
劇のシーンに合った音楽を選び、本番ではそれを場面に合わせて流す。
すんなり曲が決まるといいけど、イメージに合うものが見つからないと、それこそ何曲も何十曲も聞いて探さないといけない。
楽しいような、つらいような……。
いや、やっぱりつらいかも。
「……うーん、これもイマイチかなー。結構、曲を探すのって難しいねー」
もうCD3枚くらい聞いているおれは、少しキンキンする耳からイヤホンを外した。
そして目の前に座る、もう1人の音響係に笑いかける。
「……柳井さんは、何か見つかった?」
「……う、ううん。わ、私も……あんまり上手く見つけられない……」
小さい声でそう言って、困ったように目を伏せたのは、もう1人の音響係。
そう、柳井さん。
何の縁か、彼女と2人で音響係をすることになったのだ。
おれとしては沢渡のこともあるし、なるべく柳井さんと仲良く楽しくやろうと思っているんだけど、
大人しい柳井さんは、おれが話しかけても小さい声でポソポソ答えるだけ。
全く話が盛り上がらない。
困った困った。
なんか柳井さんの緊張をとく、いい方法ないかなー。
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