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「ご、ゴメンね……松田くん。作業を中断しちゃって。つ、続きをしようか」
「あ、う、うん……」
柳井さんがイヤホンを耳につけて、台本と向かい合う。
おれはそんな柳井さんを見ながら、ちょっぴり驚いていた。
……柳井さん、言うときは言うんだな。
遠慮しちゃって、何も言えないタイプかと思っていたけど。
「……ど、どうかした? 松田くん」
おれの視線に気づいたのか、柳井さんが恐る恐るという感じで台本から顔をあげた。
片方の耳からイヤホンを外す。
「え、いやー。さっきの衣装、可愛かったなーって」
何となく本当のことを言いづらくて、おれは適当に誤魔化した。
「そ、そうだね。イメージにピッタリだし。高橋さん達、すごいね……」
「まあね。楽しみだなー、女子があの衣装着たところを見るの。きっと可愛いだろうなー。早く見たいなー」
「……ま、松田くんって、なんかすごいね。そ、そんなストレートに言っちゃうんだ」
「え? ダメ? だって可愛いもんは可愛いじゃん」
「ダメじゃないけど。ふ、普通はあんまり女の子を可愛いとか、素直には言えないものかな……って思ってたから……」
うつむきがちに、小さい声で柳井さんは言った。
そんなもんかなー。
まあ確かに沢渡や三浦が、女子を『可愛い可愛い』言ってるとこは見たことないけど。
「いーのいーの。女の子は可愛いの。
柳井さん知ってる? 女の子は砂糖とスパイスで出来てるんだよー」
なんて冗談まじりにそう言った。
すると意外にも、柳井さんはパッと顔をあげて小さく笑う。
「……それ、マザーグースだね?」
「え?」
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