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……またお話しようね、か。
その日の帰り道、柳井さんの笑顔と言葉を何度も反すうしていた。
すると不思議と顔がにやけてくる。
ヤバい。めちゃくちゃテンションが上がってんのがわかる。
なんなんだろう。
「……何だよ、松田。気持ち悪ーな。テンション高くね?」
あげくに、一緒に帰っていた三浦に、冷たく突っ込まれてしまった。
「そうかな? 音響の仕事、楽しいからかなー」
そう返すと、三浦は更に不審そうな顔になる。
「音響っていうか、柳井さんと話すのが面白いんじゃねーの?
なあ、沢渡。松田のヤツ、ずっと柳井さんにばっか話し掛けてんだぜ。あやしくね?」
そう言って、隣を歩く沢渡に話をふる三浦。
すると沢渡の表情が微妙に変わった。
……それは今まで見たこともない顔。
怒っているわけではない。
悲しんでいるわけでもない。
ただ……不愉快そうだった。
まるで大切にしている宝物を、突然誰かに奪われたような。
そんな心細さと、大きな戸惑いが沢渡の瞳に浮かんでいたのだ。
三浦が『松田、マジで柳井さん好きなんじゃねーの?』なんて言うと、沢渡に浮かんでいた陰りはますます濃くなる。
そんな沢渡を見ていると、おれの心にも今までにない気持ちが生まれていった。
……どうしてかわからないけど、正直に話さない方がいいと思ったんだ。
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