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「……、」
「あ、目が覚めた?」
少年が目を覚ますと、心配そうに顔を覗き込むウミの姿が視界に入った。
海で倒れていた少年はウミに抱きかかえられ、近くの診療所に連れられた。
医師に診てもらってから数時間、漸く目を覚ました少年にウミは安堵の息を吐く。
「良かった、目を覚まして……どこか痛いところとかツラいところはない?」
「……」
少年は黙ったまま首を横に振った。
白いシーツの上に深い蒼色の髪が揺れ、ウミは僅かに動きを止める。
海の蒼を写したような、そんな色。
不思議な雰囲気を醸し出す少年は、何故海で倒れていたのだろう。
拭えない疑問を抱きながら、ウミは医師を呼びに行った。
「……うん、問題はないようだね」
診察を終えた医師の言葉にウミはホッと胸を撫で下ろした。
起きてからずっと表情を変えない少年は、黙ったまま医師の質問に首を振ったり頷いたりを繰り返してる。
「それで……君、名前は?」
「……」
「君?」
少年は首を横に振った。
不思議に思ったウミは言い聞かせるような落ち着いた声色で少年に話しかけた。
「君の名前、教えてもらえないかな?」
「……」
「俺は沢渡海。君は?」
少年は少し瞳を伏せ、ゆっくりと瞬きを繰り返す。
そして、その瞳にウミを映し、ずっと塞いでいた唇を薄く開いた。
「……わからない……」
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