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それは、今から9年前の冬。
初めて雪が降った日の事だった。
屋敷を包み込む紅蓮の炎。
地に落ちる前に雪は消え去られ、炎の威力は増すばかり。
その屋敷の中で、1人の女性が小さな少年を抱きかかえて長い廊下を走っていた。
迫り来る炎で髪が焦げ、足には火傷を追っている。
それでも腕の中に抱えた我が子を守るために走り続けた。
だが炎は意志を持つように女性へと向かって襲い来る。
その炎が狙うのは少年。
少年は頭から血を流し、自分の身の丈より長い刀を抱えて気絶している。
女性、少年の母親は足の痛みに耐えながら走った。
「もう少し……もう少しだからね……」
ギュッと腕に力を込めて、足を進める。
灼ける廊下に一歩踏み出した、その瞬間に足に激痛が走り、母親は跪いてしまった。
立ち上がろうにも足が動かない。
炎はすぐ後ろ。
逃げられないと悟り、母親は少年を抱きしめて固く目を閉じた。
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