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「……?」
だが予想していた痛みや熱もなく、気付けば少年が持っていた刀がなくなっていた。
「大丈夫ですか」
幼い声が後ろから聞こえた。
その声に反射的に振り返ると、そこには焼け焦げてボロボロになった赤い着物を着た少女が炎に向かって少年が持っていた刀を翳していた。
その刀の力なのか、炎はユラユラ蠢くだけで近寄ってこない。
「あ、あやちゃん!」
「早く逃げてください。ここは私が食い止めます!」
「無理よ、あやちゃん1人じゃ……」
「これは私の責任です。だから、早く!」
「あやちゃん!!」
少女は少しだけ後ろを振り返り微笑み、炎に向かって飛び込んでいった。
「…………っ!」
少年の母親は再び立ち上がり、足を引きずりながら廊下を走った。
少年は、夢現の中で何かを手放した。
それが大事なものだったかどうかは、もう解らない。
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