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無情なまでに空は澄み渡り、立ち上る煙を遮る物は何もなかった。
その日、英雄と呼ばれた異端者は聖女とされ神に召された。
オルレアンの乙女、
フランスの英雄ジャンヌダルク。
業火の炎に灼かれた彼女は最後まで神に祈り、嘆くこともなく己の人生を全うした。
彼女を包む深紅の炎を目にした者は今日、この日のことを決して忘れないだろう。
「ジャンヌ……ジャンヌ、ジャンヌ!!」
遠く離れた、青空の中で少年の姿をした彼は自分の行いを嘆いた。
溢れ出る涙は止まらず、ただ後悔ばかりが胸を締め付ける。
その隣に立つ青年の姿をした彼もまた、静かに彼女の冥福を祈った。
「エデン……、行こう。俺らにはやらなきゃいけないことがある」
「わ、かってる……解ってる。解ってるよ……でも、だけど……!! 僕らはジャンヌを……ジャンヌ、を……」
「エデン」
赦されないことをした。
ただ平和を願って、誰よりも神を愛した少女を聖女に祭り上げて、その結果は魔女扱い。
彼女の死後に英雄などと讃えても、彼女は還らない。
そんな、まるで言い訳のような称号に何の意味があるのか。
彼女が望んだのは名誉でも何でもなかったはずなのに。
「僕らが……ジャンヌを殺してしまった……」
ただ祈るのは
彼女が愛した神の身許に還ることだけ。
主よ
どうか彼女が救ったこの世界に安寧を。
どうか神の身許で心安らかに。
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