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長瀬くんのMerry Christmas
12月24日、世間はクリスマス・イヴということで、お祭り騒ぎのように賑わっている。
朝から降り出した雨も、昼を過ぎた頃から雪へと変わり、あらゆるものを白く染めあげている。
恋人たちは寒さに身を寄せあいながら、あるいは互いの手を暖めあいながら、賑やかな街を歩いている。
しかし、廣幸はずいぶん前からこの日が憂鬱でならなかった。
できればこの日が来ることがなければよいのにと、ずいぶん前から願っていた。
だが、時間は決して止まることはなく、一日一日と進んでいき、ついにこの日が来てしまった。
廣幸には恋人がいない。
しかし、それが理由でクリスマス・イヴが嫌なわけではない。
そもそも、廣幸はそれほど女性に興味がないのだ。
だからといって、男性に興味があるというわけでもない。
廣幸はどちらかと言えば、他人に興味がないのだ。
誰かと一緒にいて、煩わしい思いをするくらいであれば、一人で数学の問題を解いていたほうが、よほど心地良いのだ。
廣幸がこの日を迎えるのが嫌だった理由、それは学校で与えられたボランティア活動という課題にあった。
廣幸の通う高校では、毎年この課題が与えられるのだ。
冬休みの一週間前くらいになると、ホームルームで誰がどのようなボランティア活動をするのかが決められる。
一口にボランティア活動と言っても様々なものがある。
ゴミ拾いのようなものから始まり、老人の介護のようなものまである。
それらを、クラスの話し合いで割り振るのだ。
廣幸としては、できるだけ騒がしさのない、一人で淡々とこなすことのできるボランティア活動を選びたかったし、もちろんそうする予定だった。
しかし、その予定はもろくも崩れさってしまった。
ボランティア活動を決めるその日、廣幸は数年ぶりに高熱を出し、学校を休まなくてはならなくなってしまったのだ。
当然のこととして、学校を休んでいる人間に意見を述べる機会など与えられることはなく、廣幸のすべきボランティア活動は、他のクラスメイト達が選んだ残りのものと鳴ってしまった。
廣幸に与えられたボランティア活動、それは、雪村学園におけるクリスマスイベントの手伝いというものだった。
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