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あれは、私が6才の時でした。
遠い親戚に不幸があり、おばあちゃんと通夜に行きました。
色んな所から親戚が集まり、家の中は人で溢れています。
10才の従妹と私は、歩いて数分の所にある古びた旅館に連れて行かれ、そこで寝るように言われ、おばあちゃんは通夜に戻って行きました。
通された純和風の部屋は、何か重苦しい感じがしたのを覚えています。
テレビを見る事に飽きた従妹は、
「旅館を探検しよう。」
と言い出しました。
他に客等入ってる様子はなく、ギシギシ鳴る階段をドキドキしながら上がりました。
すると、「浴室」と書いてある扉の隙間から湯気が漏れていました。
「お風呂場だ!」
って事で、4つ上の従妹のお姉ちゃんは迷うことなく入って行き、私をお風呂に入れてくれました。
さっぱりした2人は部屋に戻り、敷いてある布団に潜り込みました。
布団は2つ敷いてあったのですが、私はお姉ちゃんの布団に入りました。
2~30分して何かの視線が気になるのです。
ふっと、目をやると床の間に日本人形が飾られていたのです。
その視線を避ける為に、子供ながらにその人形の向きを変えたのです。
そして、また2~30分ふと人形を見ると元の位置に戻っていました。
怖くなり、お姉ちゃんを起こすと、今度はお姉ちゃんが人形の向きを変えました。
しかし、しばらくするとまた、元に戻っているのです。
2人で布団に潜り込み、震えているとおばあちゃんが帰って来ました。
興奮気味に話す2人の手を掴み、廊下に出ました。
おばあちゃんに手を引かれ、廊下を歩いている時、不思議な事に気が付いたのです。
さっき、お姉ちゃんと入った「浴室」と書かれたお風呂場は、使用禁止の紙が張られていたのです。
おばあちゃんの手を止めたのはお姉ちゃんでした。
「ここ・・・さっき入ったよね。」
そう言うと何の迷いもなく、扉を開けたのです。
さっきまで、お湯が一杯だった湯船は朽ち果て、壁はカビだらけ、湿気の匂いと蜘蛛の巣だらけのこのお風呂場に確かに2人は、入ったのです。
おばあちゃんは何かを悟ったかの様に、2人の手を強く引き旅館を後にしました。
あれから20数年経ち、たまにお姉ちゃんと会うと、あの時の話をしますが、何度聞いても何も話してくれないおばあちゃんが、先日この世を去りました。
あの時の出来事は、未だに謎のままです。
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