三章

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咲希は、近所の小さな公園の前で立ち止まる。 よく見ると、ブランコには、肩を落として座っている美沙がいた。 ギコー、ギコー そっと隣のブランコに咲希が座る。 「咲希ちゃん……」 「懐かしいね。昔は、日が暮れるまでよく遊んだよね。……公園、こんな狭かったかな」 ギーコーとブランコを漕ぎながら咲希は公園を見回している。 「……うん」 「急に帰るなんて、どうしたの?言いたくなかった言わなくていいけど……」 「……写真、……家族写真が飾ったままだったんだ。離婚するちょっと前に撮った写真……みんな笑ってた」 咲希は、スッとブランコを漕ぐのを止めて美沙の言葉に耳を傾ける。 「うん」 「今日、本当はね、少し嬉しかったんだよね。……少しだよ」 「うん」 「ずっと憎んでた。ううん。憎むしか出来なかった。ずっと笑い合っていた家族が、あの人のせいでバラバラになってさ……」 「うん」 「それまではね、大好きだったんだよね。いっつもあの人の後ろをくっついて回ってた。バラバラになった後も、会いたくてどうしようもなかった。けど、お母さんが会わせてくれなかった」 「うん」 「寂しさがどんどん憎しみに変わっていって、会いた気持ちを閉じ込めたんだ」 「うん」
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