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「それがね、…今日、…あの人……お父さんの…顔を…見たら、……嬉しさが込み上げてきて、『ただいま』って言いそうになった……」
美沙から涙が流れ落ちた。
咲希は、そっと美沙に近寄り抱きしめた。
「本当は昔みたいに笑って一緒にくらしたいよ!なんで!なんで!別々に暮らさないといけないの!なんで!うわーん!!!」
泣きながら叫ぶ美沙を、咲希は抱きしめたまま、頭を撫でた。
「辛かったよね……。でもさ、美沙ちゃんはもっと素直になってもいいんじゃないかな?会いたければいつでも会いに来ちゃいなさいよ。きっと、おじさんも喜ぶよ」
「……でも、……お母さんが」
「うん。お母さんの気持ちを大切にしてるんだよね。でも、美沙ちゃんのお父さんは一人しかいないでしょ?たった一人のお父さん……。本当に会えなくなったら後悔するよ!少しでも会いたいと思ったら、会った方がいいよ!お母さんも、ちゃんと分かってくれるから!」
咲希の父親は、まだ咲希が小さい頃、事故で亡くなっていた。
「咲希ちゃん……。ありがとう、……美沙、……ちょっとずつ、……頑張ってみるね」
「うん。じゃあ、どうする?戻る?」
咲希は、美沙の頭をよしよしと撫でている。
「ううん。今日は止めておく」
美沙は、涙を拭うと笑顔を浮かべた。
「よし!じゃあ、駅まで送るよ!」
「いいよぉ。一人で帰れるから」
「たまにはお姉さんらしい事させなさい!行こ!」
咲希は、そっと手をさしのべた。
「……ありがとう」
夕日に照らされた二人は、手を繋いで駅へ向かった。
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