2人が本棚に入れています
本棚に追加
一月一日。
「結菜、はぐれるからお母さんから離れちゃ駄目よ」
「分かってるよ」
…とは言ったものの。
やっと人混みから抜け出して一人 木の下に佇む。
「…どう、しよう……はぐれ…ちゃった………」
誰かに連絡をしようにも、不運なことに今日は家に携帯を忘れてきてしまった。
「よりによって今日忘れてくるなんて……」
じわっと目に涙が浮かぶ。
一歩進むのすら難儀なこの人混みの中、会える確率は果たしてどれくらいだろう。
このまま会えなかったら……と強い不安が込み上げてきて、涙で視界が滲んだ。
――それでも、何とか自分を奮い立たせて人混みを見やる。
(ここで泣いてたって仕方ないんだから……! …とりあえず、ここに居たほうが良いの、かな……。下手に動いたらすれ違っちゃうかもしれないもんね……)
「「結菜姉!!」」
(…? 今、名前を呼ばれたような……気のせいかな)
…と、その時ふいに後ろから肩を叩かれ、ビクッと大げさなくらい驚いて後ろを振り返る。
「……!!!! …あ。皆どうしてここに…?」
そこには、いつものメンバーが笑って立っていた。
「それはこっちのセリフだ。結菜、母さんたちと来てたんじゃなかったのか?」
苦笑いして問いかけてきたのは、いとこの篤斗。彼は、黒いレザージャケットにジーンズ、十字のペンダントという、オシャレな格好をしていた。
「…あ~……えっと…それは………」
口ごもった結菜の頭を、ぽんぽんと軽く叩いて桜色の髪をした男はニッコリ笑った。
「…迷子だもんな~? 結菜」
「ま、迷子じゃないもん……!! ちょっとはぐれただけで……!」
茶色い瞳を見返して頬を膨らませる。
―彼は幼稚園からの幼なじみであり腐れ縁でもある靖吉。
瞳と同じ焦げ茶のピーコートから覗くオレンジ色のセーターは、彼の明るい性格を映しているかのようだ。
「やっぱり結菜は迷ちゃんだな~」
と、真面目な顔で言ったのは、隣人の家族で2・3歳年上の大学生の言成。
彼は、上下ともウインドブレーカーに身を包んでいた。
「だから……!!」
「…結菜。諦めたら……?」
「無駄だと思うぞ」
尚も否定しようとした結菜を諫(いさ)めたのはいとこの兄弟 汀卒と律。
長く伸びたきれいな髪をそのまま垂らし、灰色のダッフルコートを着たフランス人のお母さん似の汀卒と。
対象的に漆黒の短髪にジージャンを着ているのが律。
最初のコメントを投稿しよう!