第一話 変わりゆく町の眺め

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 俺がこの町に来るのは、およそ6年ぶりになるだろうか?小学校まではこの町で過ごしていたのだが、今日にいたるまで祖父母の家に住んでいた。 家庭の事情と言う奴で、俺は両親が居ない。だが、そんな俺にも帰る家はあった。 両親の所有するこの家だ。 表札には狗飼と書かれている。今日からこの家に住み、この町で生計を立て、学校生活を送るのだが、すでにこの町での仕事は決まっている。 依頼を受けた知人の元へ、俺は自宅から歩いて向かう事にした。  自宅から30分、町をほぼ全体的に見渡せるこの病院で20歳で医師として働く北本龍司と言う男が居る。 「よお、都心からわざわざこんな田舎くんだりまで御苦労なこった」 こいつは昔家が近所だったという事で付き合いがあるが、俺より六歳年上の癖に未だに俺と本気で喧嘩するほどガキみたいなやつだ。 「いいじゃねえかよ、両親のいない静かな一軒家で一人暮らし…お前の好きなゲームの主人公その物だ。」 「まったくだ。これで転校する学校の先輩、クラスメイト、美術の先生が攻略対象だったらなんて考えただけで殺してやりたくなるぜ」 医者が殺すとか言うなし… 「まあ、年越えて来年度から通うから皆より長い冬休みを満喫するよ」 つまり、現在12月だが俺は来年の4月、二年生になってから学校へ登校することになっている。 進学校の特権でガンガン単位を取ったせいで、後は出席日数と一年分勉強すれば卒業できてしまうわけだ。 「それで?依頼の内容は?」 俺が切り出すと、龍司は天井を二回指差した。 龍司にくっついて行った先には病院の屋上があり、中年の女性がパジャマのズボンなどを干していた。 「北本先生こんにちは」 「こんにちは、お爺さんの洗濯物ですか?」 などとあいさつを交わし、町が一望できる方の手すりへもたれかかった。 「真琴、火」 「あん」
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