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――……それよりも、いいのか。若造よ。
急に声を低くして、意味深な言葉を口にするベンチ。
――責任とれねぇくせに、あんな大ボラ吹いてよ。さっきのお前ぇの言葉、どうせ嘘なんだろ?
ベンチが言っているのは、男が子供と別れるときに言った「君が信じていれば、いつかきっと会えるよ」という言葉の事である。素直な子供は男の言葉を信じたが、ベンチは男のついた嘘に気づいていた。
ベンチにジトッとした視線を向けられた男は、ムッとした顔で言った。
「仕方ないよ。ああ言いでもしないと、あの子泣いてただろうしね」
――けっ、罪な男だな
ベンチはそう言うと、煙管をスパッと吸う。言っておくが、あくまでそう見えるだけだ。
「なんとでも言え、どうせ僕にはあれしか言える言葉はなかったんたから」
不機嫌そうな声を出す男は、ふて腐れたように思い切りベンチに寄りかかる。
ぎいぃっと大きな音がしてベンチは「うっ!」と軽く呻いたが、男はしれっと無視した。
かなり痛かったらしく、ベンチは涙目になっていた。
――……くそ、本当にふてぇ男だな。チッ、テメェみてえな男は女に嫌われるぜ!
ベンチは涙の溜まった目で男を睨みながら悪態を吐いた。
半ばやけくそ気味に投げつけられた言葉に対し、ピクリと眉を跳ね上げる男。その男の意外な反応に、きらんとベンチの目が光った。
面白そうだなと思ったベンチは、試しに少しばかり男を煽ってみる。
――そんなんじゃ嫁さんできねぇな。って事はお前一生独りモンか。ふっ、可愛そうにぃ
ニヤニヤと笑いながベンチは言う。ちらり、ちらりと男の様子を面白そうに眺める。
「………」
どんどん男の眉間のシワが深くなっていく。男は確実にベンチの言葉に対し怒っている。
段々面白くなってきたベンチは、更に男を煽ってみる。ついでに、クククと喉の奥で笑ってやった。
――今からでも遅くないぜ。寂しい老後を迎える前に近所の老人ホームの個室の予約、早めに取っときなぁ
ぶちん!
どこかで男の堪忍袋の緒が切れる音がした。
ベンチの言葉にぶちキレた男は、思わず声を荒げて叫んだ。
「僕にはもう、嫁さんいるから!」
男が叫んだ瞬間、ばさばさと周囲で大きな羽音が響いた。
さっきまで盛んに囀ずっていた小鳥達がその怒声に驚き、何処かへと一斉に飛び去ってしまった。
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