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それは、九月上旬のこと。季節は夏から秋へ変わり始めたところだ。
暦の上では秋と言うことで真夏の暑さは影を潜めたものの、うだるような暑さは健在で快適とは程遠い日々が続いていた。
太陽の日差しも初夏のそれと大差はなく、周囲の木々もまだ青々とした葉をつけている。セミの声こそ聞こえないが、暑さも太陽も木々も気分はまだ夏のまま。
だが、枝に留まっている小鳥達は微かな季節の移ろいを感じているらしく、ようやく訪れた秋を喜ぶかのように盛んに囀り合っていた。
「…………」
誰もいない静かな公園で、黙って景色を眺める一人の男。
時刻はもうすぐ八つ時といったところか。そのせいなのか、公園には子供はおろか男以外の人間は誰もいなかった。
しばらくの間ぼんやりと辺りを見渡していた男は、視線を景色から公園内の設備へと移す。
そして偶然視界に入った備え付けのベンチの方に歩み寄ると、おもむろに腰掛けた。
ギシッ
男が軽く腰掛けた瞬間、ベンチが大きく軋んだ音を立てた。
「!!」
その音に驚いた男は思わず立ち上がる。そして、まじまじとそのベンチを眺めた。
よく見れば男が座ったそのベンチは随分と前に作られた物らしく、一目見ただけでも分かるほど老朽化が進んでいる。それも、巨漢が乗ればヒビくらい意図も簡単についてしまいそうなほどに。
男は考える。
(このベンチ、壊れたりしないだろうか)
仮に壊れた場合、弁償とかはどうなるんだろう。ベンチの耐久性を心配した男は、困ったようにポリポリと後頭部を掻いた。
確かに、そのベンチはお世辞でも丈夫だとは言えない。寧ろ、いつ壊れてもおかしくない状態と言いたくなるほどだ。
「…………」
じっとベンチを眺める男。見れば見るほどベンチへの不安が増していく。
もしも、このベンチが壊れたら責任は誰にあるのだろうか。その時の弁償は誰が払うのか。ベンチを壊した罪は、対処法は――。
しばしの思考、そして結論。
(ベンチに座るのは止めておこう)
結論を出しながら、我ながら妥当な結論だと男は思った。
(わざわざリスク負ってまで、ここに拘る必要もない訳だし。それに、休む場所なら他にある)
そう古ベンチでの休息を断念した最もな理由付けをした男は、キョロキョロと公園内を見渡して他に座れそうな場所を探し始めた。
その時、男の側で何かがザワリと揺れた。
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