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――おい、若造
突然、誰かが呼ぶ声が聞こえた。
驚きのあまり、その場で飛び上がる男。
「誰だ!?」
一声叫んでから男は声のした方を振り向くと、何故か先程の古ぼけたベンチが目に入った。
――てめぇ、勝手に俺の耐久性を見くびってんじゃねぇぞ。お前ぇは俺を見て『古ぼけていて壊れそう』なんてぇ思ったんだろうが、てめぇが思ってるほど俺はやわじゃねぇ
地鳴りのような凄味のある声が、男の腹にズシリと響く。
いくら辺りを見回しても、言葉を発しそうな存在はどこにもない。声そのものも耳から聞こえてくるのではなく、直接脳内へ流れ込んでくるように感じられる。
そして、男にはその声は目の前のベンチから発せられているように思えた。
「いえ、あの。そんな事は――」
突然話しかけてきたベンチに対し、ほぼ反射的に男はそう答える男。しかし、江戸っ子の頑固親父のようなベンチは、ガンたれるように男を無言で睨んでくる。
ベンチの威圧感に気圧されながらも、男も負けじとジトッとベンチを睨み返す。
すると、更にベンチは男を威圧してきた。
――ほおぅ……。この俺を睨むたぁ、大した度胸だな
男を嘲るようにベンチは言う。
相手をいたぶるような物言いと、ドスのきいた野太い声が非常に怖い。
「…………」
しばらく男はベンチを睨み続けていたが、やがて観念したかのように恐る恐るゆっくりと腰掛けた。
今度は何の音もしなかった。
――ったくよぉ、てめぇみたいな若造は黙って座ってりゃいいんだよ
ようやく自分に座った男に対し、ぶっきらぼうにベンチは言う。だが口調とは逆に、その言葉からはどこか満足そうな雰囲気が漂ってきた。
「……ふぅ」
ベンチの言葉を聞いて、ぐったりとした様子で大きく息をつく。ベンチとのやりとりで、かなりの気力と体力を消耗したのだ。
男――ブロンドの髪と藍色の目を持つ三十代半ばの彼は、一見すれば変わった服装をした外国人に見えた。もしも今誰かが男の姿を見たとしても、『変な外国の人』くらいにしか思わないだろう。
だが、その胸ポケットに縫い付けられている小さな金属のプレートが、男がこの地の人間でないことを物語っていた。
普通のプレートに見えなくもないが、そこに刻まれた文字を使用する地域は全宇宙を探しても彼の故郷のみ。当然この地には存在しない文字だ。
――そう、男は異星の住人であった。
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