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「――おじさん」
誰かに声をかけられた。
男が声のした方を見ると、栗色の髪の毛にこげ茶の目をした、小さな男の子が立っていた。
向かい側の広場で遊んでいたらしく、大きなボールを抱えていた。
(たしか、妹夫婦に同じくらいの息子がいたなぁ)
純粋な意味で子供が好きな男は、目の前の子供を見て思わず口許を綻ばせる。
「おじさん、おじさんのママと喧嘩したの?」
ふにゃりとした顔で微笑む男に、子供は少し首を傾げながら訊ねた。
「へっ!?」
子供の問いで、ふっと我に返る男。そして、目の前の子供が地球人(危険クラスE)だと気づいた瞬間、ふにゃけた表情が凍りついた。
万が一の事態を避けるために最も人気のない時間帯を選んだ男にとって、子供の登場は全くの予想外だった。
「け、けけけ喧嘩?」
突然現れた調査対象物を前に、物凄く動揺する男。思うように言葉が出てこない。
「ボクのパパはね、ママとケンカするとママの機嫌直るまで公園に出かけるんだ。」
子供は男の様子に気づいていないのか、お構いなしにどんどん話しかけてくる。
「それでね、しばらくしたらパパは土産を持って帰ってくるんだよ」
時々『むっ』と、唇を突き出しながら喋る子供。その仕草は見ていて可愛らしかったのだが、余裕のない男はそれどころではなかった。
「――で、おじさんも喧嘩なの?」
再度、同じ問いをしてくる子供。どうやら、答えるまで諦めてくれないらしい。
「お、おじさんは……ね、ちょっと、休息をしてた…んだ」
無理に作った笑顔をひきつらせながら、男は必死に答えた。
「へぇー、そうなんだ」
あっさりと納得する子供。
そして、質問に答えてもらって満足したのか単に男に興味がなくなったのか、そのままボールを持ってトコトコとどこかへ行ってしまった。
(ふぅー……)
子供が去ってほっと胸を撫で下ろす男。
だが、一分も経たないうちに――。
「ボクもおじさんと一緒に休むー」
子供が戻ってきた。
遊具の側にボールを置いてきた子供は、そう言いながら男の隣にちょこんと座った。
「――……っ!」
男の心臓が跳ね、頬に冷たい汗が流れる。
「ねぇねぇ、何かお話ししようよ」
「………」
本音を言えば、今すぐここから立ち去ってほしかった。
が、相手が子供のため邪険に扱うわけにもいかず、男は仕方なく子供とのお喋りに付き合う事にした。
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