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しかし、時と共に科学技術が進歩していくにつれ、人間界はネットの網が張り巡らされ世の中は科学の波に呑み込まれた。
そして時代が近代化すると共に、人間は夢を見る事をしなくなっていった。
神は始めは「たまにはそんな時代もあるさ」と深刻に捉えず、いつもと変わらず夢を与えて続けていた。
だが、それでも状況は悪化する一方だったため、不思議に思った神は実際に人間界に降りてみた。
そして、人間界の現状を目の当たりにした神は、初めて人間が夢を見なくなった理由を知った。
現代人のバーチャルと唯物主義でメッキされた彼らの心は、すでに夢そのものを受け付けなくなっていたのだ。
――なんて酷い世の中になったんだろうか。昔はもっとよかったのに
神にとって、この事実はとてもショッキングな事だった。
人間界に降り立ったその翌日、やっとの思いで天界に帰ってきた神の顔に笑顔はなく、その日ばかりは誰とも会わずに自室で涙に暮れていた。
いくら夢を与えても全く見向きもしなくなった人間に神は絶望し、同時に人間界に対する興味を失った。
やがて、神の足は仕事場から遠のき、同時に今までやっていた仕事も全く手を付けなくなった。
『神が仕事しに来ない』
その事は、風の速さで天界中に広まり、神々を震動させた。
「人間に飽きたんじゃないか?」
「何か計画の案でも練っているのか?」
「誰かにフラれて、ショックで寝込んでいるのでは?」
巷では様々な噂が飛び交っていたが本人はその事に関しては一切何も言わなかっため、結局真相が分からないままさらに月日は過ぎて行った。
とある人物の話によると、その頃から神は仕事らしい仕事をしなくなったと言われている。
またある人物の話では、彼の唯一の弟子が巣立った頃からとも。
それからというものの、神は自身の屋敷に籠ったまま外部と接する事はなく、彼に関する詳しい記述もその頃で途切れてしまった。
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