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「……おいおい、その言葉はないだろ?」
のっそりと上半身を起こすと、神はやれやれと肩をすくめた。
「言っておくけど、夢には遊び心も付き物なんだよ。むしろ、遊び心ありきの夢だと僕は思うね」
そうソファーの上で熱弁を振るう神だが、毎度の事なのでリテルは心の底からからうんざりした顔をしていた。
「それに君はいつも無愛想だからね、少しは身につけた方がいいと思うよ」
そう言った後に、神は悪戯っぽくウインクをする。
「……………」
無言になるリテル。ちなみに、彼女が無愛想なのは神に対してのみなのだが。
黙りこくるリテルに対し、ふふふと天使のような微笑を向ける神。
実際、その笑顔は彼女の怒りを余計に増加しているのだが、もちろんその事に彼は気づいていない。
冷ややかに睨むリテルと、優しく微笑み続ける神。
青白い火花を散らしながら向かい合う両者は全く体制を崩さない。暫くの間二人の間に沈黙が流れる。
先に沈黙を破ったのはリテルだった。
「……先ほど、大神様から伝言を預かってきました」
そして、彼女は懐から一通の封筒を取り出し、ソファーでくつろぐ神に半ば押し付けるように渡した。
どうやら、これ以上神のお遊びの相手をしていてもキリがないとリテルは判断したようだ。
ちなみに大神とは、神やリテルのいる地区の政治を取り仕切る最も位の高い神のことである。本当は別の呼び方があるのだが、周囲の者は親しみをこめて『大神』と呼んでいる。
リテルから受け取った手紙の封を切り、きちんと座り直してから無言で中の文書に目を通す神。
「大神様がベナード様に、人間界の調査の仕事を引き受けてもらいたいそうです」
女の子特有の柔らかな声で、リテルは大神からの言葉を告げる。
――人間界。
その単語を聞いた神は、嫌そうに眉をひそめた。昔は心の底から愛していたこの単語も、今となっては忌み嫌うようになっていた。
「――一定期間に報告書出せばいいらしいですね」
露骨に嫌そうな顔をしている神を、思い切り無視してリテルは話を続ける。
「あと、もしもこの仕事を引き受けてくれるのなら、今までの仕事をなしにしてもいいとおっしゃっていましたが」
その言葉を聞いて、神はますます眉間の皴を深めた。
――今までの仕事をチャラだと? 何を言っているんだ、あの大神(クソジジイ)は
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