77人が本棚に入れています
本棚に追加
「おはよう」
事件の翌々日のことである。
四季香恋との二人部屋、白矢帝斗は女の子の声で目を覚ます。
となると当然、その声の主は四季香恋であるはずだしあるべきだ。しかしどうしたわけか、四季香恋は机についている。勉強していたらしい形跡を残したまま、椅子だけを帝斗のベッドの方に向け、背筋を伸ばしながらわたわたと慌てている。
「ん……?」
「まったく、シャンとしないか。だらしないぞ」
そして、重い。帝斗の腹に、何かが乗っている。さらには、声はそこから聞こえてくる。
「ライム……」
「ん。おはようティトー、起こしにきた」
「なぜ?」
「なぜって……友達だから?」
一昨日の、ライムが他国の密偵に誘拐されかけた事件。大きな壁に囲まれた狭い世界の中で、分かれて争っている三つの国のうちの一つであるこの国では、九段階の身分によって生まれつき人生が決定される。そのうちの金紋は最上位の身分で、該当する十二の家の代表者の協議『国長会』で執政が行われる。
今帝斗の上にいる龍腕雷夢もその金紋の家の一つ、龍腕家の娘だ。対して、帝斗は最下位の白紋の、その中でも落ちこぼれの人間である。
「友達だからってより……そのポジションは隣の幼なじみじゃない?」
「どこの世界の話だ」
「いやなんとなく……っていうかあぐらはやめて、全体重がかかって本気で死にそう」
「お前、それが事件後厳しくなった警戒を抜け出してきた私に対する言葉か?」
「いや心配して警備を増やしたお父さんが不憫でならねえよ」
「そうだよティトー! こんな大事件、抜け出した先が銀紋でもそっちが処罰されるようなものなのに、龍腕様はかばって下さった恩人だよ!?」
「身分に凝り固まって、すぐに下の身分に押し付けようとする奴らですまなかったなティトー」
「とりあえず降りて? 息が苦しい」
のそ、とライムは横に降りる。
最初のコメントを投稿しよう!