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子は見ている
時々、母に対し、何を言えばいいのかわからなくなる。
励ましてあげたくても、言葉が出てこない。何を言っても白々しいからだ。
「だんだん元気になるよ」
「きっと食べられるようになるよ」
今まで幾度となく似たような言葉を口にしてきたけど、高低差の少ない階段を、ゆっくりゆっくり下りるように、母の容態は悪くなっている。
言葉に詰まった私は、視線を外に向けていた。そうするうちに、母は眠ってしまった。
ふと見ると、ちー坊が爪先立ちで、眠る母の口に吸い飲み(魔法のランプの形をした、寝たきりの人に水を飲ませる容器)を差し入れていた。
ああ、なんていい子なんだろう。
あまりにも愛しい光景に、あらゆるマイナスの感情が消えていった。
そうか、ママがおばあちゃんにしてあげるのを、見てたのか。
今、私がやっていることは、無駄じゃない。たとえ母が悪くなる一方だとしても。
人の思いに無駄なんてない。少なくとも、ママが一生懸命やっていること、娘が尽くしていることは伝わっている。
大丈夫。それだけで頑張れる。
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