つまるところ

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同じクラスの浅倉莉奈は良く笑う女の子だ。  三百六十五日。 常に笑って過ごしているじゃないかと疑うくらい、いつも笑っている。 いや、三百六十五日は言い過ぎか。 三百六十四日くらいは、常に笑っている。 多分。 しかし、ふと悲しげな表情をする時がある。 本当に、極々稀で、なんの予兆もなくそれは来る。 数学の授業中だったり 友達との会話の隙間だったり それは降ってくる。 なぜ、僕がそんなに彼女の感情の機微に敏感なのかというと それは多分偶然だ。 彼女はいつも笑っているはずなのに、僕がふと彼女に目を向けるとなぜか悲しい顔をしているのだ。 僕の「ふと」と、彼女の「ふと」は偶然に一致する。 ただそれだけだ。 なぜそんな表情をするのか分からないが ただ一つ言えることは彼女は ただ明るくていつも笑っているだけの女の子ではないということだ。 こんな淡々とした文字を並べたところで 僕が浅倉莉奈という人物を理解できているとは到底思えない。 いや、人が人を理解するというのは不可能なことなのかもしれない。  本来ならば、僕が彼女の事を語るべきではない。 けれど、僕は彼女の事を語らずにはいられない。 僕の知る限りの彼女を僕は語ろう。 僕の中での彼女を僕は全力で語ろう。   いや、その、なんだ。 だから、結局、僕が言いたいのは。  つまるところ 僕は彼女のことがどうしようもなく好きだということだ。
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