夢想

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「何してるの」  軽く声を掛けただけだというのに、数人がビクリと体を震わせた。 空気がピシリと緊張に包まれたような気がする。 一気に視線がこちらへ向けられ、そしてそれらが私を認識するや否や緊張感が一斉に和らいだ。 なんなんだ。 「野谷さん……」 どこかホッとしたような声音で一人が呟いた。  ――反応からして、絶対善いことはしてないな。 「皆こんなところで何してるの」 もう一度、ゆっくりとそう問い掛けを投げれば、少しばかり再び緊張感が辺りを支配した。 「の、野谷さんこそ何してるの?」  質問返しと来ましたか。 ますます、怪しい。 「私はちょっと散歩。……で、何してるわけ」 今度は少し語調を強めると、またしても沈黙。 やましいことがないなら答えられるだろうに。 「……な、慰めてたんだよ」 唐突に誰かがそう言った。 それを境に、皆が皆、そうだよ、慰めてた、と便乗。 「崎原さんが泣いてたから」  崎原さん。 名前を聞いても一瞬誰だか思い浮かべられなかった。 あんまり喋らない生徒の名前と顔が一致しないのはご愛嬌。 まあ私も人のことは言えないだろうけど。 「ね、崎原さん。慰めてたんだよ、ね」 「う、うん」 ぐすぐすと鼻を啜りながら頷いた彼女に目を向ければ、目を腫らした崎原さんと目が合った。 その目が一瞬輝き、しかしすぐに光をなくす。 「崎原さん、もう大丈夫だよね?教室に戻りましょ」 「わかった」 一人の言葉に地べたに座り込んでいた彼女はよろよろと立ち上がり、涙を拭きながら歩き始める。  最中、不安げな瞳を私の方へ寄越した。 その仕種から、それから、先程の態度から私は全てを理解した。 「野谷さんも教室に帰った方がいいよ。もう始業のチャイム鳴るし」 「すぐ戻るよ。それより、一つ聞いていいかな」 「何?」 「皆、崎原さんのことイジメてるんじゃない」
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